ウィタ・セクスアリス

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水曜日は、予備校の授業が早く終わる。
その足で大石の家の前まで行くと、門の横に、工務店の名前が書かれた軽トラックが停まっていた。


迎えてくれた彼は、すまなそうに言った。
「風呂釜が壊れちゃって、直してもらってるんだ…。」


通されたのは、2階の彼の部屋じゃなく、居間の方だった。
「工務店の人たちが帰るまで、下にいないとならなくって。」
そう言って、アイスティーを出してくれた。


俺は、ソファーに腰掛けて、彼の家の新聞を広げて、テレビ欄をチェックした。
リモコンを手に取り、自分の家のテレビのように、ザッピングした。

その間にも、彼は風呂場の方へと呼ばれたり、お茶とお菓子の用意をしたりと忙しそうだった。



今日はできないんだなぁ、と思った。
エッチするのは、愛を深める手段であって、目的ではない。
でも、それも、ここのところ、俺に関しては建前になりつつあった。


去年は、学校と予備校で忙しくて、二人で会う暇なんて、ほとんどなかった。
でも高等部を卒業して、浪人生活に入ると、想像以上に自由な時間があった。
同級生の中には予備校へ通いながら、アルバイトをしている者までいた。

俺の場合、その自由な時間は、体力維持のための乾作成メニューをこなし、それから、こうして恋人と過ごしていた。
そして、その恋人との時間は、ここ最近、会うたびエッチ…という感じになっていた。
まぁ、きっと、多くの恋人同士が通る道だと思うけど。



大石が戻ってきて、俺の隣に腰を下ろした。
「ごめんな。なんだか落ち着かなくて。」
「大変だな。風呂釜壊れちゃ。昨日?」
「うん、昨日の夜。」

彼は、グラスが空になっているのを見て、言った。
「何か飲む?そうだ、アイス食べるか?」
「うん。」
なんとなく、離れたくないから、彼の後ろについて、冷蔵庫の前まで行った。

彼が冷凍室を開けると、同じメーカーのアイスクリームが、4種類入っていた。
二人でしゃがんで覗き込んだ。

「どれにしよーか。」
顔が近づいて、彼の匂いがした。
あー、もうちょっと、近くで嗅ぎたい、彼の匂い。

それぞれ違う味を選ぶと、彼は、冷凍室の引き出しを戻した。
ソファーに二人並んで座って、食べ始めた。


「赤本すすんだ?」
先々週、二人で本屋に寄ったとき、それぞれ志望校の赤本を購入したのだ。
「すすんでないんだ。」
と言って、彼は笑った。

彼が、自ら課したノルマをこなせないなんて、珍しい。
やっぱり、難関校だし、問題が難しいんだろうな、と思った。

俺と会って、エッチしてる暇があったら、勉強した方がいいんじゃないだろうか。
と、一瞬、思った。
でも、それだと、俺が困るんだよな…。


半分食べたところで、アイスのカップを交換した。
何となく、いつもこうして食べていた。

彼の横顔をのぞき見た。
鼻筋が通っているから、横顔がきれいなのだ。
顔に惚れたわけじゃないけど、顔だって、もちろん好きだから。



「すいませーん。」
工務店の人の野太い声がした。
「あっ、はーい。」
彼は、食べかけのアイスを置くと、風呂場へ行ってしまった。

自分のアイスを食べ終わった俺は、彼のアイスが溶けていくのを眺めていた。
この時間のテレビはワイドショーばかりで、つまらない。

なんだか眠くなってきたから、俺は、テレビを消して、ソファーの上に体を横たえた。
全部を占領したら悪いので、脚を曲げて、体を縮こませた。
そうしたら、もう、吸い込まれるように、眠りに堕ちていった。


気がつくと、俺のお腹から下には、タオルケットがかかっていた。
大石は、部屋にいないようだった。
暑くて、寝汗をかいていた。
せっかくかけてくれたタオルケットだが、蹴って床へ落とした。
体を俯せにして、まどろみの中へ戻ろうとした。



突然、大石の匂いがした、と思うと、彼が俺の上に覆いかぶさってきた。
びっくりして、思わず、体を固くした。

彼は、俺のうなじにくちづけて、汗を舌で舐め取った。
熱い吐息が、うなじにかかって、ぞくぞくした。

ハーフパンツの裾から彼の手が入ってきて、内腿を撫でた。
腰のあたりに押し付けられた箇所が、徐々に硬さを増してきた。

「…ここで、するの?」
「…まずいよな。上、行こう。」



俺は、寝起きで足元が覚束なかった。
彼は俺の手を取って、引っ張るようにして歩いた。
そんなに早くしたいのかな、と思った。

もう、工務店の人たちは帰ったようだった。
たぶん今は5時前後なのだろう。
あと30分もすれば、彼のお母さんが帰ってくる。
…時間がないのだ。



大石の部屋に入ると、すぐに言われた。
「英二、服脱いで。」

そう言いながら、彼はもうほとんど、自分の服を脱ぎ終わっていた。
彼は、ベッドの上にバスタオルを数枚敷いた。


俺も、急がなきゃと思うのだが、なにせ寝起きで、シャツのボタンがうまく外せなかった。
結局、彼は、焦れたように、俺を押し倒した。
それから、すばやく服を剥ぎ取っていった。



「キスして。」
俺が言うと、なにかを刻み込みたいかのような、深いくちづけをくれた。

エッチの時、彼の瞳は、いつもすごく熱っぽい。
だけど、今日は、刺さるような鋭さもあって。
ちょっと怖いと思った。


いつもは時間があるから、体中の、感じるところを探しながら、ゆっくりと高めてくれるんだけど。
今日は、タイムリミットが迫っているから、俺が感じやすい所ばかりを選んでいた。
だから、たちまち高まってしまって、なんだか自分が浅ましいみたいな気がして、恥ずかしかった。


彼は、俺を座らせて、自分もその後ろから俺を抱えるみたいに座った。
そして、右手でしてくれた。
この形でしてもらうの、好き…。

彼の手に自分の手を添える。
触って欲しいところに彼の手を導く。
そうすると、なんだか自分でしてるみたいだけど、でも、そうじゃない。

背中には彼の熱い肌があって、固くなったものが触れる。
それに、なにより、彼の手が、してくれているのだ、とうれしくなる。


片思いが長かったから、こんな風に、屈折した興奮の仕方をするのかな…。
俺も結構、エッチだよな…。
大石のこと、言えないよ。


彼が耳元でささやいた。
「…いくとこ、ちかくで…。」
そして、左手を俺の顎に添えて、顔を上げさせた。

いく時の顔って、まぬけなんだよな。
なんでそんな顔みたいんだろ。
…でも、俺も見たいや、大石がいく時の顔。

ただの友達では見られない顔だから。
だから、見たいんだ…。
そっか…。


俺が彼の手の中に出した液体を、彼は自分のものに塗りたくった。
俺を横向きに寝かせると、後ろから抱き寄せた。

そして、自分のものを、俺の腿の間に挟むと、前後に体を動かし始めた。

俺は一瞬固まった。
これって、女性が入れさせてくれないときの…。
まさか、自分が恋人にそれをされるとは、思ってもみなかった…。


「…え…、…じ、……え……」
かすれた、かすかな声で彼がささやいていた。

彼は俺の名前を呼んでいるのだ。
繰り返し、繰り返し…。

血液が逆流したみたいに、体が熱くなった。
そんな純情な自分の反応に、俺は戸惑った。


彼のものが前後に動かされるたびに、俺の内腿と、彼が使おうと言った場所に擦りつけられた。

そこに触れられると、体の芯が痺れるようで、心がさざめいた。

そのさざめきは、怖くて…。
…でも、やっぱり、甘かった。
めまいがするほどに…。


「…ここに、いれたいの?」
「うん…いれたい…。」
「きもちよく、なりたい?」
「うん、きもちよくなりたい…英二、俺をきもちよくして…。」
「いいよ…俺、大石をきもちよくしたいから…いれて、いいよ…。」

俺の言葉とほとんど同時に、彼は射精していた。

「…いいの?英二?こわくない?」
彼が心配そうに尋ねた。
「大丈夫。俺、大石をきもちよくしたい…。」


それは、本当のことだ。
俺はもう、十分に、気持ちよくしてもらってる。
でも、彼はどうなんだろう、気持ちいいんだろうか、足りているんだろうか。
足りないなら、あげたい。
愛しているなら、当然、そう思うだろう。



部屋の壁にかかった時計を見ると、5時半を過ぎていた。
二人とも慌てて、始末に取り掛かった。
行為の後のけだるい体に、衣服を着けた。


「…英二、ありがとう…。」
大石は、俺を後ろから抱きしめた。

なにか言いたかったけど、なんにも思い付かなかったから、彼の手の上に、俺の手を重ねた。

ずっとこうしていたい、って思ったけど、階下に人の気配がした。


「おばさん、帰ってきたね。」
「うん…。」


大石も俺と同じ気持ちみたいだった。

夕暮れ時の部屋で、俺たちは、ぴったりくっついたままで、立ちつくしていた。

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