ウィタ・セクスアリス
2
大石秀一郎は浮かれていた。
恋人とは順調。
模試の結果も上々。
心なしか、肌もツヤツヤだった。
去年の冬のはじめに、キスを覚えた。
英二のくちびるは、俺のよりずっとずっと、やわらかくて。
やり方もわからず、ただ吸いついていたら、腫れちゃうよ、と嗜められた。
口の中のやわらかさとか、熱さとか。
体の外側の皮膚とは、どうしてこんなにちがうんだろう、と思った。
したたる甘い蜜の味を、俺は知ってしまった。
恋人以外しか触れることのない箇所。
そこに今、触れているのだ。
そう思うと、頭の芯が痺れた。
その後も、彼に任せっきりだった。
俺は何にも経験がないから。
何が何だかわからぬままに。
彼が四つん這いになって、俺をいかせてくれた時は、感動した。
でも、素肌を愛撫されるのは、ただくすぐったいだけで。
やっぱり俺は雄なんだ、と思う。
英二を気持ち良くしてあげたい、って思うだけ。
というよりは、見たいのだ。
快感におぼれる、彼の顔を。
もっと、もっと見たい。
苦しそうに眉をひそめて、まぶたをぎゅっと閉じて。
まぶたを開くと、その瞳は黒目がいつもよりも大きく見える。
ぼんやりと、視点を結ばない瞳。
くちびるは快感に充血して、赤い。
そのくちびるに、指をはさむ癖。
ときどき、無意識に、その指を自分で舐めている。
指と指との隙間から漏れ出る吐息は、甘くて熱い…。
3年も思い続けて、彼を思う時、いつも切なかったけれど。
今は、切ないというよりは、いとおしくて。
初めて彼を、かわいいと思っていた。
昨日の情事を思い出す。
「んっ…」
彼は感じて、腰を大きくひねった。
「…いま、どこさわったの…?」
「お臍…舐めたの。」
顔を赤らめて、目を円くしていた。
そんなとこ、なめないでよ、と言われたけれど。
彼の体のどこが感じるのか、この探究心は尽きることがない。
ずっと想い続けた、彼の腿の内側は、滑らかで、熱い。
そこに、何度もキスをした。
その後ろの誘惑に、抗いきれなくて、そっと触れた。
彼は、怯えて、俺の方を見なかった。
怖がって、俺の声が聞こえないふりをした。
俺の、かわいい人。
怖がらないで。
もっと、気持ち良くしてあげたいんだ。
耳元にささやくと、ぎゅっと目を閉じて、うなずいた。
いとおしくて、後ろから抱きすくめた。
大丈夫。
俺にまかせて…。
…といっても。
俺も初めてなんだよな。
大丈夫だろうか。
痛いからもうしない、って泣かれたら、弱ってしまう。
念には念を入れて、もう一度調べておこう。
パソコンを立ち上げて検索をかけた。
ふぅん。
こんな方法があるんだ…。
あっ、これを使えば…。
浪人生にはあるまじき、夜が更けていった…。