ウィタ・セクスアリス
1
菊丸英二は困っていた。
自室で参考書を広げていたけれど、考えることといえば、恋人のことばかりだった。
なんで、こうなったんだろう。
少し前まで、あんなにかわいかったのに。
彼はキスの仕方も知らなくて。
俺が、教えたのに。
その先だって。
キスした時に、背中に回した手を、彼のTシャツの中に入れた。
彼はびっくりして、固まってたっけ。
初めての時は、二人とも、扱い方もわからなくて。
口を使ってみたけど、歯を立てちゃって大失敗。
顔にかけて目に入ったり。
わけもわからず、大変だった。
俺は、中途半端な経験はあったから、一応リードしていたつもり。
上になったり下になったり、交代で、気持ち良くしあっていたんだけど…。
最近は、なんだか様子が変わってきた。
彼は全然下りてくれなくて…。
俺はずっと組み敷かれて、ため息を吐くばかりなんだ…。
大石って、意外とエッチだったんだ…。
6年間、品行方正の優等生だったから、溜まってたのかなぁ、なんて思った。
まぁ、嫌なわけじゃないけど…。
でも、ちょっと悔しかった。
昨日の情事を思い出す。
俺の内腿にくちづけていた彼は、突然、後ろの方に触れたのだ。
ぎょっとして、体を固くした。
「英二、ここ使ってみようか。」
彼の声は、何かを押し殺したように、いつもより低くて。
俺は、怖いと思ったから、返事をしなかった。
そしたら、彼は俺の耳元でささやいたんだ。
「…もっと気持ち良くさせたいんだ。」
甘い声で言うから、思わず、うなずいてしまった。
「準備が必要だから、また今度、ね。」
と言って、俺の頭を撫でた。
…悔しい。
子供をあやすみたいにして。
どうなってるんだ。
あんなにかわいかった彼が…。
パソコンを開いて、検索をかけた。
俺だって、彼のことを3年も好きだったわけだし、もちろん、そういうことに興味はあった。
そこに入れて愛し合う方法があることも、知ってた。
でも、ちょっと怖かったから、リアルな情報は遠ざけていたのだ。
パソコンの画面に検索結果を表示した。
え…、準備って。
準備って、こんなこと、するわけ…?
なんで俺が…。
なんで俺がこんなこと、しなきゃならないんだ…。
よくよく考えれば、想像はつくはずだった。
あんなところ、だもんな…。
だいたいさ、そーゆーことに使っても、いいのかな…。
そのための器官じゃないわけだろ。
いまさら根本的な話だけど…。
俺、やっぱり無理だ。
絶対断ろう。
だって、今でも十分気持ちいい。
もっと気持ちよくしてもらう、必要ない。
絶対断るんだ。
…そのはずだったんだけど…。