オトコゴロシ


ベッドに滑り込めば、準備万端、シーツの上にバスタオルが敷いてあった。
いつの間にと思って、ふふと笑みがこぼれる。
くるりと体を反転させて、うつ伏せる。
腰を少し浮かせて、バスタオルを直す。

「あっ」
浮かせた左脚を畳まれて、お尻の位置が少し上がった。

大石のごつごつした手でお尻をつかまれると、いつもくらくらとめまいがする。
そうして、俺はすっかりおとなしくなってしまう。

そういう感覚がわきおこるのも不思議だったが、その感覚に身を委ねて平気などころかうっとりさえしているのはもっと不思議だった。
20数年間生きてきてはじめて、俺も知らなかった俺がいることを知った。
大石がいなかったら、会わなかったら、元日に大石が来なかったら。
俺は、俺が知らない俺がいることを、今も知らないでいたのだろう。

「大丈夫?」
ささやき声は、普段より甘さ100%増し。
友達同士の頃は、聞いたことなかった声音。

「ん…。して…」
俺の声も、つられて甘くなる。

頭を枕に預けて、体の力を抜く。
節くれ立った指を、大石は慎重に一本だけ差し込む。
壊れ物を扱うようにやさしく愛撫してくれる。

二本、三本と増やされていく指が、入口近くを擦りあげるように刺激する。
大石の指の動きに合わせて、突き出したお尻が動く。
見えない自分の姿を想像すると、なんだか気持ち悪い。
でも、そんな気持ち悪くて馬鹿みたいな自分も嫌いじゃない。

大石が動きを止めて準備をする。

俺は持ち上げていたお尻を下ろして、少しぼんやりして考える。
こんな地味な体位で、大石はいいんだろうか。
大胆に大股開きとかアクロバティックなのとか、そういうのができたら、もっと楽しませてあげられるのに。

そうはいっても、俺はエッチ初心者で、この体位以外ではまだいけたためしがないのだから仕方がない。
いつも一人エッチするときの体勢と似てるから落ち着くのか集中できるのか、理由はわからない。
とにかくしばらくはこの体位で、というのが二人のコンセンサスだった。

するからには、いきたい。
そこのところは譲れない。


「準備オッケー?」
「ん…」

茶化したわけではないけれど、あえて軽いノリで尋ねる。
なんとなくぎこちない笑顔の大石。
かわいい。

ふとんにぺたりと伏せて、少し横向きになると、俺の背中に大石が胸をつける。
試合の最中みたいな体温と鼓動に、またもやくらくらする。

あの頃は、こんなふうになるとは全然思っていなかった。
俺は鈍くて、大石の気持ちに気が付かなかった。

それどころか自分の気持ちだってわからないで。
いつの間にか好きになってたのも気付かないで。

あの頃の大石もかわいかったな。
あの頃も、俺とこうしたいと思ってたのかな。
聞いてみるのもいいけれど、今はそれよりなにより早く欲しかった。

大石のが跳ねるように俺のお尻に当たる。
後ろ手に手探りで、探し当てて促す。
俺の手の中でどくんと脈打って一回り大きくなったと思うと、大きなそれがするりと差し込まれた。

「あ、苦しくない…」
「ほんと?よかった」

少し前までは、入れた直後は苦しくて動くどころではなく、馴染むまでそのままでいてもらったこともあったのだ。
だんだんと慣れてきたものの、それでもまだキツい時がある。

「動くよ」
「ん…」

縦に横にとやさしく揺さぶられ、俺はそれにただ身を任せる。
いきなり激しくされても、全然気持ちよくならない、まずはやさしくゆっくりと。
エッチ初心者の二人が力を合わせて、気持ちよくなるために試行錯誤したこの半年、いや5カ月。
大石は、俺が辛くないようにと、いつもそれを最優先にしてくれた。
そういう優しさに改めて気付く時、同時に、自分が奴にはまっていることに気が付く。

緩やかな甘さが腰のあたりをじんわり支配しはじめる。
大石の手が前に回って来たから、取って除ける。
「いや?」
そう言いながら、今度は胸の辺りに指を這わすから、また払い除ける。
「しないで…要らないから」

入れたままで体を触られると、すぐにいってしまう。
俺は、一度中でいってからというもの、その感覚をまた味わいたいとそればかり思っていた。
といっても、いきたいいきたいと思うとかえってなかなかいけなかったりする。
そうして、毎回時間ばかりかかっている。
我ながら、わがままというか貪欲というかとあきれるしかない。
それとも、これも負けず嫌いのゆえなのか。


1月1日の、寒い寒い、朝。
なんだってわざわざ、正月なんだと思ったのだ。
そして、なんだってこんなに朝早いのだと思ったのだ。
階下では、母と祖母が正月料理の支度にあわただしく働いていた。

大石の顔色は、血の気が引いて紙のように真っ白だった。
唇は冷たくて、そして、ガサガサに乾いていた。
手も氷みたいに冷たくて、震えていた。