オトコゴロシ


大石は右手でベッドの縁を掴んで、左手をシーツの上に突いた。
それを支えにして、腰を回す。

甘く緩やかな痺れが撹拌されて、激しい疼きに変わっていく。
熱を持ち始めた体がもっともっとと快感を求めて、内側から沸き上がるようにさざめく。
知らず、腰をせり上げて応えるように回していた。

「いい?」
「コレ、いっ…いいよぉ…」
「いけそう?」
「いっ、んんっ…いっ…はぁっ…」

高まりを持て余した俺は、左手の指をくわえてしゃぶった。
一人エッチするときの癖だ。
大石のを想像して、舐めたり吸ったり、いつもしてる。

大石のは、まだ一度もしたことない。
して、とも言われないし、いつもだいたい元気なので、するチャンスもない。
実際にしてみたら、それこそ気持ち悪くなってしまうかもしれないけど。

「あ…」
その指が外されて、代わりに大石の指が、口の中に入って来た。
すかさず、ちゅっと吸い上げて放す。

大石は浮かせていた体を下ろして、俺の背中を抱いた。
指を、二本、三本と入れてくる。
それを、親猫が子猫にするみたいにやさしく舐めてあげる。

ごつごつと骨ばった指先。
優しくて、獰猛な、いやらしい、指先。

あの日は、氷みたいに冷たくて、かわいそうなほど乾いていた。
顔色と同じに、血の気が引いたように白くて、震えていた。

「ずっと前からこうしたかった?」
さっきの疑問を聞いてみる。

「ずっとしたかったよ…」
返事を聞いて、またぺろりと舐め上げる。

「エッチなことしたいと思ってたの?」
「思ってたよ…ずっと好きだったんだから…」

爪の付け根の辺りを軽く甘噛みすると、大石は突き刺したものを揺すった。

「あぁんっ…」
「…英二…」
「ソコ、もっと…」
「ん…」

こういう睦言は嘘でも本当でも、どちらでも構わない。
気持ちよく感じればそれでいい。
いいはずなんだけど。
本当ならいいと思った。


大きくゆっくり動かされると、腰から下が溶けそうになる。
一方で、俺は大石の人差し指を根元まで飲み込んで、ちゅーちゅーと丁寧に吸い上げる。

俺も好きだった、ずっとずっと前からお前とこうしたかった、こうなりたかった。
今はそう思っていたい。

小刻みな揺れに襲われると、せかされるみたいにして、俺は高みにのぼっていく。
唇と舌は、差し入れられた指を代わる代わる順に舐めたりしゃぶったりと忙しい。
ぺちゃぺちゃぴちゃぴちゃという唾液の音に、喘ぎ声だかため息だかわからない声が混ざりあう。
俺は自分の出す音で一層高まってしまう。

せわしなく突き上げられる腰は、されるがままでいない。
突き刺されたものを搾り取るように、自らうねる。
腰の下に敷いたバスタオルは、汗と先走ったものでじんわり湿っている。

「…はぁっ…いく…いきそ…いっちゃう…」
「今日はどうしてそんなにエッチなの…」

大石の指が引き抜かれて、顔をぐいと持ち上げられた。
唾液でべちゃべちゃの唇を吸われる。

「エッチな英二もかわいい…」


あとちょっと…。
あとちょっとで…。
エッチだとかなんだとか言われた気がしたけど、気にしない。
それよりなにより、あとちょっとでいけそうなのだ。

「さっきの…こーゆーやつ…」

腰をぐるんと回しておねだりしようとして、あっと思った。
はからずも、大石の根元をきゅうと締め上げてしまった。
自分のエッチな動作で、自分で感じてしまったのだった。

「…う。英二、…ごめん」

「うそ!?」
…あとちょっとだったのに!と言いそうになったところをなんとかこらえた。

びくんと体を揺らした後、大石は俺の背中を抱いて呼吸を整えた。

「指…」
「えっ。よかった?」
「うん…」

「実はさぁ…」
うれしくなった俺は調子に乗って、例の一人エッチの秘密まで恥ずかしげもなく打ち明けた。

「…しろって言われないから、今までしなかったけど…」
「しろなんて言うわけないだろ」
「大石って、付き合ったら意外と暴君かもーとか思ってたけど、違うのな」

「…そんなこと、好きな子にさせられるわけないよ!」

…あ。
ヤバイ。
きゅーんと来ちゃった。

思わず振り返ると、あくまで真剣な顔。
マジだ!
好きな子だって!
好きな子!

「出た。必殺オトコゴロシ…」
「なんだよ、それ…」
「ああもう、なんでもいいよ!責任とって、ちゃんといかせて」

くるりと体を反転させて、キスをした。

どうせ、本人は自覚ゼロなのだ。
とんでもなくカワイイ殺し文句を言ったというのに。
おかげでお前の恋人は瀕死というのに。

でもって、俺の腹には、早くも元気を取り戻した奴の分身が当たっている。

「英二があんな話するから…」
「なんだ、やっぱりして欲しいんだ?」
「…そうじゃないよ」
「でも、全然する必要ないみたい…」


するかしないかはどうあれ。
俺は、またまたはまってしまったわけで。
彼がオトコゴロシでなければ一体何だというのだろう。
俺は、今後何回殺されるのだろう。

しあわせなため息をひとつついて、もう一度キスをした。
6か月め突入の夜。




「オトコゴロシ」end

最後まで読んでくださり感謝です♪
元旦告白の謎は機会があれば…