オトコゴロシ


物心ついた時から、自分は負けず嫌いだった。
男として生まれてきたからには強くありたいし、自分より強いものは倒せるまで頑張るべきだ。

社会人になった今でも、その考えは基本的には変わっていない。
とはいえ、そんな気分もだいぶやわらかくなったのは確かで、それが誰の影響なのかもわかっている。


営業報告書の日付を、ワードが勝手に書き込む。

6月1日。

あれからそろそろ半年になるのだと気が付いた。


1月1日の朝、大石が思い詰めた表情で俺の家にやって来た。
いきなり告白して、逃げるように帰ろうとしたから引き止めた。
思いがけない事だったが、断る理由も思いつかなかった。

10年来の親友で、いまさら縮める距離もない。
そういうわけで、それから間もなくエッチした。
当然うまくいくはずもなく結果は散々だったが、その後気まずくなることもなく今に至っている。

今日は、締め日明けての金曜日。
月に一度のお泊まりデートの日だ。
報告書を書くペースも、俄然速くなる。
はじまりはあちらからだったが、俺は奴にすっかりはまってしまっていた。

オトコゴロシ、これが大石の異名、と俺はひそかに思っている。



☆☆☆


大石は、青春台の隣の市にマンションを借りている。
月一のお泊まりデートは、大石宅へお邪魔する。

最初の1、2カ月は入り浸りで毎日のようにエッチしていたが、だんだん仕事も上の空になってきた。
それではよくないと、とりあえず実家に戻って数カ月が過ぎた。

今では、ちょうどよい距離感。
月に一度というのもまた、飢餓感をあおって新鮮だったりする。


さっきまで夕食に飲んだビールでふわふわとした心地だったが、体は徐々に覚めてきた。
それなのに、心は変わらずふわふわと浮き立っている。

夕食は、たいていデリでみつくろう。
はじめの頃は二人で夕食を作ってみたりしたものの、これがなかなか大変で、やめた。
もともと作るのは嫌いではないから、気が付くと凝っている。
仕事を終えて、作って飲んで食べて片付けたら、すっかり夜も更けて日付が変わっていたりする。
他にもっとするべきことがあるのである。

俺はふわふわ心地で、空いたグラスや皿を片付ける。
大石は、鼻歌まじりに風呂を掃除している。



やけに暑い日で、狭い風呂に無理矢理二人で入って、テンション上がりきって、そのまま出てきた。
風呂上がりも素っ裸で、色気もなにもない。

なにもないのに、目が合えばキスが始まる。


今年の元日、二人ではじめてキスをした。
それで、俺も大石のことが好きなんだってわかった。

雪でも降るんじゃないかという寒い朝だった。
俺の唇が大石の唇に触れたとき、冷たいと思った。
すぐに熱くなってきて、俺も熱くなってきて、頭がぼーっとしてしまったっけ。

今日の大石の唇は、いい感じに熱い、俺と同じくらいの温度かな。
しっとり湿って、やわらかい。

うっすらかいた汗のにおいが、鼻腔をくすぐる。

「フフッ」
「なに?」
「今日って何の日だと思う?」
「…何の日?なんかあったっけ?」

律儀な彼は、首をひねって考え始める。

「なんてね。ほんとは、なんでもないよ」

それより、もっとして。
というつもりで、大石の唇に指を当てる。

付き合って、6か月め突入。
突入した今日祝えばいいのか、満6か月になったら祝えばいいのか。
普通はどちらなんだろう。


「んんっ」

胸をつままれると、キスどころではなくなる。
もうちょっとキスしていたいのだけど、この快感にもあらがえない。
触られているのは胸なのに、腰から下がどうしようもなく疼き出す。
そうして、もじもじと脚を擦り合わせてしまう。

これだって、以前はただくすぐったいだけだったのだ。
くすくす笑い出してしまって、大石はムッとしたんだった。
ムードがどうとか言ってたな。

脚を擦り合わせたり、腰をひねったり、そういう自分の反応が恥ずかしい時期もあったけど。
それを見た大石が、なんつーか盛り上がってくれるのが、だんだんうれしくなって来た。
そうして、ちょっと大げさかなと思うくらいに反応できるようになったのだ。
そういうのは演技というわけではなくて、逆に自分も盛り上がったりするのだから、自分で自分を酔わせているみたいなものかな。

たった半年足らずで、なにもかもが変わってしまった。
心も体も、創り変えられたみたい。