チョコレートデイズ
change the world 1
新しい学校に、新しい制服。
あと必要なのは、新しい友達。
部活に入らなくても、新しい友達など、できるものだろうか?
そう考えつつ、俺は4月に高校の門をくぐった。
都心にある中高一貫の進学校。
中高一貫の進学校というのは青学と変わらないが、付属の大学がない分、学生の緊張感は高い。
自然、帰宅部率、この学校では帰宅部員はいわゆる塾っ子だが、その塾っ子率も高い。
俺もやはり、そうした一員になった。
そして、青学と一番異なるのが、ここは男子校、ということだった。
「おーいしくん!あれ、あれ持ってきてくれた?」
満面の笑みで近づいてくる同級生。
「ああ。ちょっと待って」
俺は、かばんの中から、彼の目的のものを取り出す。
取り出したものを見て、彼は、わあと感嘆の声を上げる。
「まだ、中、見てないのに…」
と、俺は心の中であきれる。
彼の声につられて、他の同級生も集まってくる。
「そっ卒アル!」
「どこのどこの?」
「青学!?」
「えーまじ?」
「ちょっ、俺も見たい」
「見せて見せて」
「お願いだから」
「なんでもします」
毎度毎度のひと騒動であった。
とはいえ、これによって友人もできたのだ。
入学したての、宿泊研修で。
このときもやはり、宿泊研修先にまで卒業アルバムを持っていくはめになった。
行き帰りのバスで隣の席になった同級生とは、当然共通の話題などない。
行きがかり上、いわゆる恋バナ、に花を咲かせた。
それ以来、仮にAくん、としておくが、彼とは気の置けぬ仲となった。
それまでは、部活に熱を入れないで、どうやって友達ができるのだろうと思っていた。
恋バナというやつは、成功談などほとんどなく、お互いの弱みを見せ合うものだ。
そういうわけで、知らず親しみを覚え合っていく。
お互いに弱いところを見せ合い、励まし合い、互いの成功を祈るという点で、部活と共通するものがあるにはあるのである。
☆☆☆☆
「このコ、かわいい」
「ああ、彼氏いる」
「…いちいち教えてくれなくていいよ。夢がなくなる」
「ごめん」
宿泊研修先へと向かうバスの中で、Aくんは熱心に青学の卒業アルバムに見入っていた。
「目が大きいコを見ちゃうな」
「印象はだいたい目で決まるって言うからな」
言いながら、俺は英二のことを思い出していた。
「あとは髪の毛だな」
「うん、重要だ」
「きゃしゃな娘がいいな」
「そうだな」
「ああー恋愛したい!」
「ははは」
「青学ってさ、可愛いコ多いよな」
「普通じゃない?」
「まあ、仮に普通としてもだ。男子校に来るなんて、相当変人だよな」
「じゃあ、君もだろ」
「俺たちはさ、あれだ、騙されたっつーの?親とか、先生とかに」
そう言ってAくんは、自分の言ったことにウケて、クククと笑った。
「女のコはすてきだって、誰も教えてくれなかった…」
「あはは」
「どのコ?」
「え?」
「好きだったコに決まってるだろ」
「ああー。それは」
Aくんは、1組のページを開いた。
「この中にいる?」
「ううーん。いないけど。言いたくない」
「なんで?まだふっきれてない?」
「ふっきれるもなにも」
「まさか、告白してないんだ?学校別々になっちゃうのに。普通するだろ、当たって砕けるもんだろ」
「いやー。その子とはいい友達で。いい友達すぎて、できなかった」
「ふーん」
Aくんは、またページをぱらぱらとめくり始めた。
「いいなあ。なんか」
なんとなく、彼の言わんとすることはわかった。
こういうことは、男同士、あまりしゃべらずとも気持ちは通じるものだ。
「友達から恋人になれたら、理想的だけどな」
俺は、彼の言いたかったことを受けて、答えた。
「がんばれよー」
Aくんは、戦友でも見るようなシンパシイに満ちた瞳をしていた。
「ありがとう。がんばりたい。がんばって、みようかな…」
そんなふうに思うなんて、自分でも驚きだった。