あっつい…。
あっつい…。
あつくて死にそー…。
目が覚めると、馴染みのない部屋の、馴染みのないベッドの上にいた。
ただし、一緒のふとんの中にいるのは、馴染みがありすぎる彼…。
二人っきりの初めての旅行で、高原のホテルに泊まった。
テニスコート完備なので、昼は、延々テニスして。
そして、夜は、延々…、となったのだった。
入れる前に何回いかされたんだっけ…。
それから、繰り返し繰り返し…。
俺、一回、寝ちゃったんだ。
で、気がついたら、また始まってて…。
もう、出るもんないだろ、と思ったんだ。
結局、何回したんだろー…。
正直、昨日は1回でもいい気分だった。
でも、彼を止めるタイミングがわからなかったのだ。
それに、悪いのは俺なんだから…。
彼があんなに切羽詰まって欲しがるのは、俺が不安にさせたから…。
大学生になって、何か月も恋人の顔を見られない生活が始まった。
俺達が出会ってから初めてのことだ。
俺は、こう言ってみると恥ずかしいんだが、さみしくて、浮気して、そして敢なくばれてしまった。
意外なことに、彼は許してくれた。
その上、以前なら恥ずかしがって言ってくれなかったような気持ちも、素直に明かしてくれるようになって。
なんだかもう、ラブラブなのだ。
だけど、本当は、彼は不安だったのだ。
抱かれてみて、それがわかった。
繋がっていなければ、怖いから?
ほかの人の記憶を肌から消したいから?
こんな風に、狂ったみたいに体を求められるのには、慣れてなかった。
いつもみたいに、やさしくしてほしかった。
俺だって、まさか自分が浮気するなんて思わなかった。
俺は、弱いくせに独善的で欲張りで。
結果的になのか、本能的に選んだのか。
結局、彼を自分の思い通りに変えてしまったんだ。
俺は、ほんとうに欲しかったものを手に入れた。
彼の、やわらかくて傷つきやすい、心のいちばん深いところにに隠した気持ち…。
激しいセックスは、その小さな代償だ。
醜いな俺。
これが、人間の罪ってやつなのかもしれない。
自分の欲望が、世界の中心なんだ。
愛してる人ですら、自分の思い通りにしたいんだ。
神様が、人間を放り出したくなった気分がわかる気がした。
…あつすぎる。
こらえきれず、ふとんから這い出た。
大石って、寝てる時の体温、こんなに高いんだ…。
おそらく、彼の家族しか知らない秘密を知って、うれしくなってほくそ笑んだ。
立ち上がると、物凄い倦怠感に襲われた。
頭も腰も重くて、じんわりと鈍い痛みがあった。
毛布を一枚だけ持って、ソファーへ移動した。
もう少し眠ろうと、毛布にくるまると、すぐに、眠りに落ちた。
…髪を撫でる指は、たぶん、彼の…。
重いまぶたを開くと、目の前に彼がいた。
なんだか、せつないような、すまなそうな顔をして…。
「ごめん…英二。…大丈夫…?」
瞳も頭も、なかなか焦点が合わなくて、黙って彼の顔を見た。
「体、つらい?大丈夫?…俺のこと、きらいになった…?」
…ああ。
俺が怒って、一つふとんの中にいるのが嫌になったと思ってるんだ…。
目の前の、狼狽する彼を見て、ある誘惑に捕われた。
彼は、俺とのセックスに夢中だ。
やろうと思えば、それを餌に、彼の気持ちも行動も操ることができてしまう。
好きな男を思い通りに操るのって、どんなにか楽しいだろうな。
悪魔の誘惑だ。
俺って、やっぱり、とことん醜い。
でも、こんなにかわいい人に、これ以上、ひどいこと、できないよ…。
顔を近づけて、彼の頬にキスをした。
「嫌いになんて、なるわけないじゃない。俺は大石のだから、好きにしていい。お前が欲しいだけぜんぶ、あげるから。」
「英二…。」
瞳がきれい。
そんなところも、好き。
ソファーに寝たままで、両腕を彼の方へ伸ばして、だっこをねだるポーズをした。
「ここへ?きつそうだけど…。」
ためらいながら、彼も俺と向かい合わせに、ソファーに横たわった。
はなから、男二人が寝られる大きさではない。
俺は、彼にぎゅうぎゅうに抱きついた。
「体、あっつーい。大石、寝てる時、すごく体温高いのな。おばさんに言われたことない?」
「そういえば、母さん、そんなこと言ってたかも…。」
「あつくて、ふとんの中にいられなかっただけだよ。びっくりさせて、ごめんね。」
心底ほっとした顔で、彼が微笑った。
かわいい人。
お前が好き。
好き好き好き…。
心臓が痛いくらい…。
朝から体をくっつけあったので、お互いの生理現象に気がついて、顔を見合わせて笑った。
毛布にくるまった俺の肌は、下着も何もつけていない。
彼の体温と体の線を感じて、ざわざわと心がさざめいた。
「ね、ドアの札、"Don't disturbed"になってたっけ…?」
尋ねながら、誘う瞳で彼を見つめた。
彼は、その意を解して、ちょっと待ってと、部屋の入口へと歩いていった。
今度は、俺が欲しがる番。
俺にも、くれるよね。
欲しいだけ、ぜんぶ、お前を…。
end