「…んっ…」
あぁ、先を越された…。
玄関のドアを閉めたら、俺から仕掛けようと思ってたのに…。
くちびるが離れたので、抗議の声をあげようとしたら、ぎゅっと抱き寄せられた。
「今日は帰さない。」
…ん?
泊まるって言ってあったよね?
「…って一回言ってみたかった。」
…あっ、そーゆーこと。
大石、今日はテンションおかしいんだよね。
付き合う身にもなってほしー…。
「おーいし、カーテンつけよっか?ほら、初めての共同作業です、ってね?」
「うん。」
彼は機嫌よく、袋を開けてカーテンを引っ張り出した。
大石操縦法、だんだん身につきつつあるよな…。
彼は左側から、俺は右側からカーテンを取り付けていく。
俺の方が先に真ん中までつけ終わった。
「はやくはやく〜。」
大石が全部つけ終わるのを待ち構えていて、隙をついてキスをした。
あぁ、俺もテンションおかしいや。
まぁ、いいか。
破れ鍋に閉じ蓋、だっけ?
そういう感じ?
軽く触れて、すぐに離れた。
そのはずだったのだけれど。
カーテンを引いた部屋の中で、交わされるキスはどんどん深く激しくなっていく。
まだ陽は高いのに…。
でも止まらない。
止めたくないんだもん。
不安を埋めたいわけでも、恐れに追い立てられるわけでもなくて。
ただ、わくわくしてうれしくて、触れ合っていたいだけ。
彼と二人きりでいられる場所ができたってだけで、こんなにうれしくて、安心できるんだ…。
同棲ごっこってゆーか、ままごとみたいなもんだけど…。
まだずっと先になるけど、いつか二人で部屋を借りて、一緒に住みたいって思った。
こんな未来、描くことさえ無駄だと思って、今まで夢見たこともなかったのに。
不思議だな…。
いまは、ごくごく自然に、そういう未来があることを信じられる。
「帰りたくなーい。」
くちびるが離れたから、ふざけた口調で彼に訴えた。
「いーよ。ずっと帰らなくて。うちの子になっちゃいなさい。」
彼もふざけた調子でそう言うと、また俺を抱きしめた。
「たのしーね。」
「うん、楽しい。」
そう言って、クスクス笑い合った。
始まる前のいちゃつきを、何度も繰り返して。
いつでも始められるってわかってるから、いつまでも始まらない。
それで満足している俺達って。
…末期かな。
こんな馬鹿な姿、恥ずかしくて誰にも見せられないよ。
そーゆーのって閨の中のことだけじゃないんだな…。
だけど、たぶん、しあわせって、こういうのを言うんだ。
そう感じた、早春の午後だった。
end