ちよこれいととぐりこ

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「ち・よ・こ・れ・い・と!」

階段を一段抜かしで駆け上がる。
古びた、学校らしき建物の中。

どうやら俺は、小学生のようだ。

階段の手すりにのしかかるようにして、階下を望む。
あいつはあいつで、やはり手すりにのしかかり、こちらを見上げて腕を差し出す。
「さいしょは、グー!」

チョキを出したらあいつはグーで。

「ぐ・り・こ!」
階下から声が響く。
とはいえ、たったの3段だ。
焦ることはない。

何度かの応酬ののち、振り返るとあいつは俺のすぐ後ろに居た。

俺と同じ小学生だったはずのあいつは、いつの間にやら成長し、大石秀一郎になっていた。

「ぐ・り・こ!」
大石は三段をゆっくりと上がった。
顔が間近に迫る。

と、ここで、自分もいつの間にやら小学生でなくなっていることに気付いた。

「やばい」
と思うが速いか、俺のくちびるは大石に奪われていた。
大石の舌が、俺のくちびるとくちびるの間にぬっと分け入り、深く深く侵す。
そのさまは、もっとずっと先の、あることを連想させるから、いやがおうにも体の中心が熱くなる。



☆☆☆☆☆



「…なんなの、この夢」

とはいえ、思い当る節はいろいろとある。

6段狙って、ちよこれいとで負ける俺。
3段ずつでもこつこつと、ぐりこで勝ち上がる大石。
なんとも暗示的で、むかつくんである。

バレンタインデーは来週に迫っている。
家でも学校でも、「チョコレート」は毎日のように耳に入る単語だ。

それから、大石である。
大石は、最近力技に訴えるようになった、と思う。

大石が青学を出て他校へ進学し、ひょんなことから俺たちは「おつきあい」することになった。
こちらとしては当初はそんな心づもりもなく、どう接していいやらわからず冷たくすることもあったかもしれない。

口げんかになると、俺は負ける気がしないから、結構強気に出る。
かつての大石はそういう時、何も言えなくなって押し黙るのが常だった。
だった、のだが。
今は、というと、有無を言わせずの「ちゅー」なんである。
口では敵わないからと、万策失しての力技なんである。

別に「おロマンチックな」ちゅーなんて求めていやしないけど。
女の子じゃあるまいし。

むしろ、無理やりこじ開けられるような感覚が嫌いじゃないので困っていたりする。
いたりするけど、こう毎度毎度じゃ、俺の立場ってもんはどうなる!って言いたくもなる。



夢に揺り起こされたが、まだ夜半のようである。
携帯電話を開くと、時刻は深夜一時過ぎ。

大石からのメールが届いていた。

「14日が無理なら、土日のどちらかでもいいじゃないか」

メールのやり取りの途中で、俺は眠ってしまったのだったと思い出す。


「おつきあい」するようになったとはいえ、だ。
2月14日。
例の、恋人たちの日であるが。

そんな予定をわざわざ決めるなんて、そんな無粋なこと、気恥ずかしいこと、できるならばしたくない。
したくはないが、学校が別々になってしまったので、日にちを打ち合わせなければ会おうにも会えないのが現実なんである。

今年の2月14日は月曜日である。
もちろん、ばりばり練習日である。

俺はふうとひとつ溜息をついてから、鬼の速さでメールを打ち、見直しもせずに送った。

「14日でなきゃ意味ないだろ。無理にでもその日に会おうぜ」

あああ、たかがこれだけでも恥ずかしいことこの上ない。

だけどさあ。
負けるが勝ち、って言うしさ?
冷たくしといて、後で無理やり「ちゅー」されるより、いくらかマシじゃない?
俺もぐりこで大逆転狙おうってわけ。

説得力ない?
そうかなあ…?

調教されてる?
それはないだろ…?
…だろ!?




スミマセン…終わるともなく終わるの…
「ちよこれいととぐりこ」end

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